二相式液冷を大学へ提供、省エネ冷却の実証が進む

二相式液冷を大学へ提供、省エネ冷却の実証が進むを象徴するデータセンター液冷のイメージ

ニュースの概要

二相式の直接チップ冷却を手がける米Accelsiusが、米国立科学財団(NSF)の省エネ研究拠点「ES2」への参加を発表した。同社は冷却水を循環させる装置(CDU)まで一体化したラック型設備「NeuCool IR150」を、ES2の設立メンバーであるヴィラノーバ大学に提供する。二相式冷却は、チップに触れた冷媒が沸騰して気体になるときの熱の吸収力を使う方式だ。水を温めるだけの従来の液冷より、少ない流量で多くの熱を運べる。今回の提供は、製品を売り込む商談というより、大学の研究室に実機を置いて性能と運用ノウハウを公開データにしていく取り組みである。AI向けサーバーの発熱が急増するなか、冷却をめぐる議論は設備メーカーの宣伝から、第三者が検証できる数字へ移ろうとしている。

引用元: Accelsius、米大学のデータセンター省エネ研究に二相式液冷設備を提供(Business Wire)

分析・見解

沸騰の力で熱を運ぶ二相式の仕組み

二相式冷却の核心は、液体が気体に変わるときに大量の熱を奪う性質にある。やかんの湯が沸くとき、温度は100度で止まったまま熱を吸い続ける。あの現象を、チップの真上で意図的に起こすのだ。

通常の水冷は、水の温度が上がる分しか熱を運べない。二相式は沸騰の熱(=蒸発潜熱)を使うため、同じ熱を運ぶ冷媒の量を大きく減らせる。配管が細くなり、ポンプの電力も下がる。ただし冷媒は水ではなく、電気を通さない専用液を使うため、コストと扱いの知識が別に要る。

研究拠点に設備を置く狙いは第三者の検証にある

ES2は電子システム全体のエネルギー効率を研究する拠点だ。メーカーが自社で出す性能値は、条件が自社に有利になりがちである。大学の研究室で、他の冷却方式と同じ負荷試験にかければ、比較の物差しがそろう。

同じ構図は過去にもあった。半導体の省電力技術やデータセンターの外気冷却は、大学や公的機関の検証で数字が固まってから、一気に採用が広がった。技術が良いだけでは調達担当者は動かない。他人が測った数字があって初めて、稟議が通る。Accelsiusの狙いは、まさにこの信用の積み上げにあると読める。

ラック一体型にして導入の壁を下げる設計

NeuCool IR150が注目に値するのは、CDUをラックに内蔵した点だ。液冷の導入では、床下配管や大型の冷却設備の工事が大きな負担になる。ラック単体で完結すれば、既存の部屋に数台だけ置いて試す、という小さな始め方ができる。

これは、AI向けの高密度ラックを一気に増やせない中小規模の事業者や大学にとって現実的な入口だ。大規模な新設ではなく、空冷の部屋へ後から液冷を足す需要は大きい。

残る課題は冷媒の規制と長期運用の実績

二相式の弱点は、冷媒の環境規制と長期運用の実績不足だ。フッ素系の冷媒は欧米で規制の議論が続いており、将来の入れ替えリスクがある。また数年規模の連続運転データはまだ少ない。研究拠点での実測は、この空白を埋める材料になる。

今後は、一相式と二相式の使い分けが進むだろう。発熱が極端に大きいAI向けは二相式、汎用サーバーは一相式や空冷、という住み分けが現実的な落としどころと考える。

ビジネスへの影響

冷却方式の選定は電力契約の見直しとセットで考える

AI向けサーバーを増やす企業は、冷却を設備担当だけの話にしてはいけない。冷却に使う電力が減れば、同じ契約電力でより多くのサーバーを動かせる。受電設備の増強には数年かかることも多く、冷却の効率化は事実上の増設手段になる。

検討の際は、方式の優劣より先に、自社のラック1本あたりの発熱量を測ることだ。1ラック当たり20キロワット程度までは空冷の工夫で足りる場合が多い。それを超える計画があるなら、二相式を含めた液冷の比較対象に入れる価値がある。

小さく試し、第三者データで判断する進め方

導入判断では、メーカーの数字だけに頼らず、大学や公的機関の検証結果を探したい。今回のES2のような拠点から測定結果が出てきたら、自社の条件に近い試験を選んで読む。

まず1ラック単位の実証を、冷媒の調達や保守を含めた総費用で比べる。機器代だけで比べると、冷媒の補充や規制対応を見落とす。契約時には、冷媒の入れ替え費用を誰が持つかを必ず文書に残してほしい。

国内の事業者にとっても他人事ではない。電力の制約が厳しい日本では、冷却の効率化は海外より早く経営課題になる。今のうちに比較の物差しを持っておくことが、後の選択肢を広げる。

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