DC COOLING REPORT

液冷技術の全体像 DLC・リアドア・液浸冷却

空冷の限界を超える4つの冷却方式とCDUの役割

データセンターの冷却方式は、空気で熱を運ぶ「空冷」から、液体で熱を運ぶ「液冷」へと急速に軸足を移しています。本ページでは、空冷の仕組みと限界を確認したうえで、ダイレクト・トゥ・チップ冷却(DLC)、リアドア熱交換器(RDHx)、液浸冷却という主要な液冷方式の原理と適用範囲、そして液冷システムの心臓部であるCDU(冷却分配装置)と冷媒管理の要点を、方式比較の形で整理します。

このページの要点: 空冷の実用上限はラック約30kW。AI標準ラック(100kW超)に単独対応できるのはDLCと液浸のみで、既設施設の入口としてはリアドア熱交換器が有力です。方式は二者択一ではなく、密度に応じた組み合わせで設計するのが現在の標準的な考え方です。

空冷方式の仕組みと限界

従来のデータセンター冷却は、空調機で冷やした空気をサーバー前面から吸わせ、背面から出る熱気を回収する空冷方式が基本でした。冷気と熱気の混合を防ぐホットアイル/コールドアイルの封じ込め(コンティンメント)や、外気を活用するフリークーリングの工夫を重ね、空冷は長らく十分に機能してきました。

空冷の運用は「風の管理」に尽きます。床下から吹き上げる冷気の圧力バランス、ラック内の隙間を塞ぐブランクパネル、ケーブルによる気流阻害の排除など、地道な気流設計の積み重ねで効率が決まります。この分野のノウハウは液冷時代にも無駄にはならず、液冷サーバーの残熱処理や汎用ゾーンの効率化に引き続き活きています。

しかし空気は熱を運ぶ媒体としては効率が低く、同じ体積で比較すると水は空気の約3,500倍の熱を運べます。ラック電力密度が20〜30kWを超えるあたりから、必要な風量・ファン動力が急増して経済性が崩れ、40kWを超えると空冷だけでの安定運用は物理的に困難になります。GPU 1個のTDPが1,000Wを超えた現在、AIサーバーの冷却では「空気の限界」が業界共通の前提になりました。

誤解されがちですが、空冷が消えるわけではありません。ストレージ、ネットワーク機器、一般的な業務サーバーの大半は今後も空冷で運用されますし、液冷サーバーでもメモリや電源部の残熱処理には空調が必要です。実務上の論点は「空冷か液冷か」の二者択一ではなく、施設全体の熱をどの方式にどう配分するかという設計問題に変わった、と捉えるのが正確です。

図1 冷却方式別の対応ラック電力密度の目安(kW/ラック)

空冷(封じ込め) リアドア熱交換器 DLC(コールドプレート) 液浸冷却 〜30kW 〜60kW 〜150kW 200kW超 ※構成・冷媒温度により変動する一般的な目安値

各方式の対応密度は設計条件で変わりますが、AI標準ラック(100kW超)に単独で対応できるのはDLCと液浸のみです。

ダイレクト・トゥ・チップ冷却(DLC)

ダイレクト・トゥ・チップ冷却(Direct-to-Chip、直接液冷)は、CPUやGPUなど発熱の大きい部品に「コールドプレート」と呼ばれる金属製の水路付きプレートを密着させ、内部に冷却液を循環させて熱を回収する方式です。現在のAIサーバー液冷の主流であり、NVIDIAのGB200/GB300 NVL72をはじめとするラックスケールAIシステムはこの方式を標準採用しています。

冷却液には防食剤を添加したプロピレングリコール水溶液(PG25)などが使われ、ラック内のマニホールドを経由して各サーバーに分配されます。サーバーの抜き差しを可能にするのが、着脱時に液漏れを防ぐクイックディスコネクトカップリングです。チップの熱の7〜8割を液体側で回収し、残るメモリや電源部品の熱は空冷で処理するハイブリッド構成が一般的なため、DLC導入後も一定の空調能力は必要です。

DLCが主流になった理由は、性能と現実性のバランスにあります。サーバーの筐体構造やラックの形態を大きく変えずに導入でき、既存のデータセンター運用と連続性を保てるためです。一方で部品点数が多く、カップリングやホースなど接続部の品質が信頼性を左右するため、部材の調達と施工管理がプロジェクトの成否を分けるポイントになります。

図2 DLC冷却ループの基本構成

サーバー コールドプレート (GPU/CPU) マニホールド ラック内分配 CDU 熱交換・ポンプ 施設冷却水 チラー/冷却塔 →大気へ放熱 高温側(熱を運ぶ流れ) 低温側(冷却された流れ)

CDUがサーバー側の二次冷却ループと施設側の一次冷却水を熱交換で分離し、水質・流量・温度を管理します。

リアドア熱交換器(RDHx)

リアドア熱交換器は、ラックの背面扉そのものを冷却水が流れるラジエータに置き換える方式です。サーバーから排出された熱気が扉を通過する瞬間に熱を回収するため、サーバー本体には一切手を加えずに導入できます。既設データセンターの液冷化における「最初の一歩」として採用が多く、1ラックあたり40〜60kW程度まで対応可能です。

パッシブ型(サーバーファンの風力のみ)とアクティブ型(扉側にファンを追加)があり、アクティブ型はより高い熱負荷に対応します。DLCと組み合わせて、コールドプレートで回収しきれない残熱をリアドアで処理する併用構成も増えており、機械室全体の空調を増強せずに高密度化を進める現実解として位置づけられています。

導入面での利点は、サーバー保証に影響を与えないことと、ラック単位で段階的に増設できることです。一方で、扉の開閉時には冷却能力が一時的に失われるため運用手順の整備が必要なこと、冷却水配管をラック背面まで引き込む工事が発生することは考慮点です。既設データセンターがGPUサーバーの受け入れを打診されたとき、最短の工期で対応できる現実的な選択肢として、リアドアの引き合いは2025年以降大きく増えています。

液浸冷却(単相・二相)

液浸冷却(イマージョン冷却)は、サーバー基板全体を電気を通さない誘電性流体に沈めて冷やす方式です。部品のほぼ100%の熱を液体で直接回収できるため冷却効率が最も高く、ファンが不要になることで騒音・振動・粉塵の問題も同時に解消します。

液が液体のまま循環する「単相式」と、液の沸騰と凝縮を利用する「二相式」に大別されます。単相式は炭化水素系オイルを使い、構造が単純で運用しやすい一方、機器のメンテナンス時に液の付着を処理する手間があります。二相式は沸点の低いフッ素系流体で高い熱輸送能力を実現しますが、流体の価格と環境規制(PFAS規制)の動向が課題です。液浸市場はCAGR 21.9%と高成長が予測されており、暗号資産マイニングやエッジ用途から、AI推論・HPC用途へと適用が広がっています。

液浸の弱点とされてきた保守性についても改善が進んでいます。タンクからサーバーを引き上げるリフト機構の標準装備、液切りトレーの工夫、オイル対応を明示したサーバーベンダーの保証プログラムなどが整い、導入障壁は年々下がっています。ただし床面積あたりの重量が大きく、既存ビルの床荷重では設置できないケースがあるため、液浸は平屋・低層の専用施設やコンテナ型データセンターとの組み合わせで採用される傾向があります。

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CDUと冷媒・冷却水の管理

液冷システムの信頼性を左右するのがCDU(Coolant Distribution Unit、冷却分配装置)です。CDUはサーバー側の二次冷却ループと建物側の一次冷却水を熱交換器で分離し、ポンプで流量を制御し、温度・圧力・漏えいを監視する、いわば液冷の心臓部です。ラック内蔵型(〜100kW級)から、複数ラックを束ねる大型のロー型・施設型(600kW〜2MW級)まで製品化が進み、大手ベンダーの主戦場になっています。

冷媒管理も運用の要諦です。水系冷媒は防食剤・防藻剤の濃度管理と定期的な水質分析が必要で、配管材質との相性(ガルバニック腐食の防止)を含めた化学管理の知見が求められます。この領域は空調工事とは異なるノウハウであり、配管洗浄・水質管理を専業とする企業が買収対象になるなど、バリューチェーン上の価値が急上昇しています。詳細は主要企業とM&A動向で報告します。

CDU選定の実務では、冷却容量(kW)だけでなく、接近温度(一次側と二次側の温度差)、ポンプの冗長構成、漏えい検知と自動遮断の方式、監視プロトコル(Redfish、SNMPなど)への対応が比較ポイントになります。ラック内蔵型は導入が容易な半面、保守時にラック単位の影響が出るため、規模が大きい施設では列型・施設型CDUで系統を束ねる構成が選ばれる傾向にあります。

方式比較と選定の考え方

表1 主要冷却方式の比較

方式対応密度の目安既設への導入強み主な課題
空冷+封じ込め〜30kW容易実績・運用ノウハウが豊富高密度に対応できない
リアドア熱交換器〜60kW比較的容易サーバー無改造で導入可能単独では超高密度に不足
DLC(コールドプレート)〜150kW配管工事が必要AIサーバー標準方式・実績急増残熱の空冷が必要、漏えい管理
液浸(単相)200kW超専用タンクが必要ほぼ全熱を液体回収、静音保守性、機器保証、床荷重
液浸(二相)200kW超専用タンクが必要最高水準の熱輸送能力流体コスト、PFAS規制動向

方式選定は「対象ラックの電力密度」「新設か既設か」「運用体制」の3軸で考えるのが基本です。AI学習用の超高密度ラックを新設するならDLCが標準解、既設施設の部分的な高密度化ならリアドア併用、特殊環境や極限密度なら液浸、という役割分担が現在の業界の共通認識です。

また、方式は一度選んだら固定というものではありません。実際の施設では、汎用ゾーンは空冷、GPUゾーンはDLC+リアドア、実験的な高密度区画は液浸、といった混在構成が珍しくなく、世代更新のたびに構成比が液冷側へシフトしていきます。したがって設備計画では、特定方式への最適化よりも「将来の方式転換に耐える配管容量・床荷重・電源余力を確保しておくこと」が最も重要な意思決定になります。導入手順とコストの詳細は液冷導入の実務を、密度動向はAIサーバーと高密度ラックの熱設計をご覧ください。