二相液冷の冷却液が選べる時代へ、ChemoursのFaizeon投入が示すもの
ニュースの概要
化学メーカーのChemoursは、AIや高性能計算、高密度データセンター向けに、二相式の液冷に使う冷却液群「Faizeon」を発表した。二相式とは、液体が熱を受けて蒸気に変わるときの吸熱を利用する方式である。製品は大きく二つに分かれる。プロセッサに冷却板を載せる直接チップ冷却向けが100、110、200、220の4種類。サーバーごと液に沈める液浸冷却向けが500である。つまり同社は、用途別に冷却液を選べる品ぞろえとして市場に出した。冷却方式そのものではなく、その中身である液体に焦点を当てた発表である。
引用元: Chemours、AI・HPC向け二相液冷用フッ素系冷却液「Faizeon」を投入(The Chemours Company)
分析・見解
注目すべきは冷却装置ではなく液体の側にある
液冷の話題では、冷却板やポンプ、熱交換器といった装置が語られやすい。しかし二相式では、性能の大部分を液体の性質が決める。沸点、蒸発の際に奪える熱の量、電気を通さない性質、金属や樹脂との相性などである。今回のFaizeonは、この液体を用途別に分けて売るという発想が特徴だ。
装置メーカーが液体まで一体で設計する形から、化学メーカーが液体を独立した製品として供給する形へ。この変化は、電力変換装置の世界でパワー半導体が独立した部品になった流れに似ている。
直接チップ向け4種と液浸向け1種が分かれる理由
直接チップ冷却では、液体は細い流路を通り、プロセッサ直上で沸騰する。配管の中を流れるため、圧力や沸点の設計が重要になる。一方、液浸冷却ではサーバー全体が液に浸かる。基板、コネクタ、ケーブル被覆、ネジのシール材まで液と触れ続ける。求められるのは、長期間触れても部品を傷めないことだ。
同じ二相式でも、要求は大きく違う。直接チップ向けが4種類もあるのは、チップの発熱量や配管の圧力設計に合わせた微調整が必要だからだろう。液を一種類に絞れない点に、この分野の難しさが表れている。
一台あたり1キロワット超の世界が選択を迫る
AI向けの最新GPUは、1個で1キロワット前後に達する世代が現れている。ラック1本では、数十キロワットから100キロワット超の設計も珍しくない。従来の空冷では、風を送るだけで電力が膨らみ、設置場所の確保も難しくなる。
二相式は、液が蒸発する際の大きな吸熱を使うため、水を循環させる方式より少ない流量で熱を運べる。流量が少なければ、ポンプの電力も配管も小さくできる。ただし、その代償として液体のコストと管理の手間が増える。
フッ素系液体が背負う環境規制という宿題
フッ素系の冷却液には、避けて通れない論点がある。欧州ではPFAS(=有機フッ素化合物の総称)の規制議論が進んでおり、用途によっては使用の制限が検討されている。冷却液が規制対象になれば、調達できなくなる、あるいは代替液への入れ替えが必要になる可能性がある。
今回の発表で、各製品の環境性能や規制適合がどこまで示されるかは、導入判断の大きな分かれ目になる。液冷の市場が育つほど、この点の透明性が問われるようになるだろう。
ビジネスへの影響
導入検討では液体の調達と寿命を先に確認する
データセンター事業者や設備担当者は、冷却方式を選ぶ段階で液体の条件を並べて比べたい。確認すべき点は四つある。供給の安定性、交換までの期間、漏れたときの回収方法、そして規制動向への見通しだ。装置の見積もりだけで判断すると、数年後の液体コストで想定が崩れる恐れがある。
また、液は消耗品として扱う設計が現実的である。蒸発による減少や汚れを見込み、補充と回収の運用を契約前に固めておきたい。
日本の事業者が取るべき現実的な一手
日本では電力料金が高く、都市近郊の土地も限られる。小さな面積で多くの計算をこなせる液冷は、相性が良い。ただし、いきなり全面導入するのは危うい。まず一部のラックで試験運用し、保守担当者の習熟と、液体の取り扱い手順を作ることを勧める。
調達面では、複数の液体を使える設計にしておくと安全だ。特定の液体に縛られない配管や材質を選べば、規制や価格の変動に備えられる。冷却液の選択肢が増えること自体は、買い手にとって交渉力が高まる良い兆しである。